造船・舶用工業分野の人手不足を解消!特定技能外国人材の受入ガイド

日本の基幹産業である造船・舶用工業は、現在、深刻な人手不足に直面しています。高齢化や若年層の就業離れが進み、現場では労働力の確保が急務となっています。
こうした中、2019年に創設された「特定技能」制度は、即戦力となる外国人材の受け入れを可能にし、業界の持続可能性を高める新たな選択肢として注目されています。
本記事では、特定技能制度の概要から、受け入れのメリット、必要な手続き方法、最新の受け入れ状況まで、企業担当者の方が知っておくべき情報をわかりやすく解説します。
人手不足の根本的な解決に向けて、外国人材の活用を真剣に検討するための第一歩として、ぜひご一読ください。
特定技能制度とは?

日本国内で深刻な人手不足に直面する造船・舶用工業分野では、即戦力となる外国人材の受け入れが急務です。特定技能制度は、こうしたニーズに応えるため、一定の専門性・技能を有し、日本語能力を備えた外国人を特定の職種で就労可能とする在留資格として、2019年4月に創設されました。制度の主眼は「労働力確保」であり、技術移転を主目的とする技能実習制度とは趣旨が異なります。
特定技能1号と2号の違い
特定技能には1号と2号の在留資格があり、それぞれ要件が異なります。
項目 | 特定技能1号 | 特定技能2号 |
---|---|---|
対象者 | 基本的な業務遂行能力を有し、即戦力として期待される人材 | 上級の技能を有し、監督・管理業務にも従事できる人材 |
在留期間 | 通算最長5年(更新は6か月・1年・3年ごと) | 上限なし(更新を重ねることで長期就労が可能) |
日本語能力 | 日本語能力試験N4以上相当 | 同上 |
支援機関 | 登録支援機関による日常生活・日本語教育等のサポート必須 | 登録支援機関によるサポート義務なし |
家族帯同 | 原則不可 | 可能 |
試験要件 | 分野別試験+日本語試験 | 分野上級試験(または技能検定1級)+監督経験2年以上 |
対象業務区分(造船・舶用) | 造船区分 舶用機械区分 舶用電気電子機器区分 | 監督者業務(造船・舶用機械・電気電子機器の監督) |
具体的な業務例 | 溶接、塗装、鉄工、機械加工、配管、電装組立てなど | 複数作業員の指揮・命令・管理 |
基本的な説明としては、1号は即戦力となる人材の確保、2号はより熟練した監督業務も担える人材の確保ということになります。
造船・舶用工業分野では1号・2号ともに受け入れ可能ですが、まずは自社のニーズを整理・把握し、1号か2号のいずれが適切かを判断なさってください。
まずは1号を受け入れ、2号への移行を支援するといった対応も現実的な選択の一つでしょう。
造船・舶用工業分野における特定技能の役割と対象業務
特定技能制度では、1号・2号ともに、従事できる業務が明確に定められています。
特定技能1号の対象業務
特定技能1号では、以下の3つの区分に整理された業務を遂行できます。
造船区分 | 船体構造物の組立て・溶接・塗装 構造部材の仕上げ・検査など |
---|---|
舶用機械区分 | 機械加工(旋盤、フライス盤、マシニングセンタ等) 溶接・塗装・鉄工作業および機械保全 配管工事、仕上げ作業など |
舶用電気電子機器区分 | 電気機器の組立て・配線 プリント配線板製造工程 電子機器の検査・調整 |
これら主要業務に付随し、準備・点検・後片付けなどの関連業務にも従事可能です。ただし、関連業務のみを専ら担当したり、外国人材だけが付帯業務に携わったりすることは認められていません。
参考:特定技能1号の各分野の仕事内容(Job Description) | 出入国在留管理庁
特定技能2号の対象業務内容
特定技能2号で従事できるのは、造船・舶用機械・舶用電気電子機器の各分野における監督者業務全般です。具体的には以下のとおりです。
- 作業指示・進捗管理
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作業手順の指示、スケジュール調整、進捗状況の把握
- 品質管理
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製造・仕上げ工程の品質チェック、不良対応
- 安全管理
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作業現場の安全点検、リスクアセスメントの実施
- スタッフ教育・育成
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新規作業員への技術指導、OJT計画の策定
- 工程改善
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効率化提案、作業標準の見直し
加えて、以下の関連業務にも従事可能です。
- 読図作業、作業工程管理、各種検査(外観、寸法、材質、強度、非破壊、耐圧気密等)
- 機器・装置・工具の保守管理、運搬機の運転
- 材料・資材の管理・配置、部品・製品の養生
- 足場の組立て・解体、廃材処理、清掃
- 梱包・出荷、運搬、入出渠作業
これらの業務遂行を通じて、企業の生産性向上や技術継承を強力に支援します。
参考:特定技能2号の各分野の仕事内容(Job Description) | 出入国在留管理庁
特定技能2号へのステップアップ
特定技能2号は、現場の監督者として複数作業員の指揮・命令・管理を担う上級人材を見据えた制度です。移行要件は以下のとおりです。
- 造船・舶用工業分野特定技能2号試験(上級)または技能検定1級の合格
- 監督者としての実務経験2年以上
上記の条件を満たすことで、在留期間の上限なく更新が可能となり、長期的な人材戦略を支援します。

なぜ造船・舶用工業で特定技能外国人材なのか?受け入れのメリット

造船・舶用工業分野は、常に高い技術が求められる反面、若手人材の確保が難しく、慢性的な人手不足に悩まされています。特定技能制度を活用することで、企業は以下のようなメリットを得られます。
- 1. 採用コストと工数の削減
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登録支援機関を活用することで、採用後に必要な生活オリエンテーションや定期面談、職場定着支援を外部委託できます。これにより人事担当者の業務負担が軽減し、求人広告費や人材紹介料といった採用コストの効率化が期待できます。
- 2. 即戦力としての活用
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分野別試験と日本語能力試験(JLPT N4以上)の合格者は、入社後の基礎教育にかかる時間を短縮できます。企業は独自の設備や手順を教える必要はあるものの、基礎技能は担保されており、教育コストを抑えつつ即戦力を確保できます。
- 3. 労働環境の改善
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外国人材の受け入れにあたっては、適切な雇用管理が義務付けられています。たとえば、天候不良時の賃金保証や安全教育の実施などが求められ、これらの取り組みは日本人従業員の労働環境改善にもつながります。
- 4. 技術継承と多能工化の促進
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特定技能2号への移行を見据えたキャリアパスを用意することで、長期的に熟練技能を育成できます。多能工化研修を実施すれば、外国人材も複数の業務を習得し、現場の柔軟性と生産性向上に寄与します。
- 5. 定着率向上への効果
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寮や社宅の提供、家賃補助などの福利厚生を整備することで、母国への仕送りを重視する外国人材の手取り向上を図り、応募者の増加や定着率の向上が期待できます。
このように、特定技能制度は単なる「労働力補充」にとどまらず、企業の成長戦略の一翼を担う制度です。造船・舶用工業分野での導入は、即効性ある人手不足解消とともに、技術継承、生産性向上、働きやすい職場づくりを同時に実現する手段といえます。

特定技能外国人材受け入れる企業に求められる要件

特定技能外国人材を受け入れる企業は、「受け入れ機関(特定技能所属機関)」と呼ばれ、外国人材を雇用するにあたって満たすべき要件が定められています。
受け入れ機関(所属機関)は、以下の基準を満たし、適正な雇用契約を締結する必要があります。
- 法令遵守
- 過去5年以内に出入国管理及び難民認定法、労働基準法等の違反がなく、労働・社会保険・租税法令を遵守していること。
- 支援体制の整備
- 外国人材が理解できる言語での支援体制と、登録支援機関との連携による生活支援・日本語教育の実施。
- 雇用状況の健全性
- 過去1年間に同種業務従事者を企業都合で非自発的に離職させておらず、行方不明者が発生していないこと。
- 透明性の運用
- 出入国在留管理局と定期的に連携し、法令遵守状況を共有した運用を行うこと。
特定技能雇用契約のポイント
- 書面契約と多言語対応
- 日本語および外国人材が理解できる言語(英語等)で契約書を作成し、本人署名を取得。
- 同一賃金同一労働
- 日本人労働者と同等以上の報酬・労働条件とし、固定残業代の内訳や割増率を明示すること。
- 契約期間の設定
- 特定技能1号は在留期間上限5年、2号は上限なしを踏まえ、契約期間は原則3年以内とする。
- 業務範囲の明確化
- 造船・舶用工業分野の業務区分(溶接、塗装、鉄工、機械加工など)を契約書に記載。
企業はこれらの要件に基づき、外国人材の受け入れ・支援に関する適切な方針を策定し、運用しなければなりません。
造船・舶用工業分野特定技能協議会への加入義務
造船・舶用工業分野で特定技能外国人材を受け入れる企業は、国土交通省が設置する「造船・舶用工業分野特定技能協議会」の構成員となることが義務付けられています。また、協議会への参加及び、国土交通省またはその委託機関が実施する調査・指導に係る協力も求められます。
これらの要件から明らかなように、特定技能制度は外国人材を「労働者」だけでなく「生活者」として尊重し、その人権と福祉を保障することを企業に求めています。適切な支援は、外国人材の能力発揮を促進し、日本の労働市場全体の健全化に寄与する長期的な投資と言えます。
特定技能人材の採用から就業開始までの流れ

特定技能の在留資格を申請する際、外国人材が「国外にいる場合」と「日本国内に在留している場合」とで、手続きや必要書類が異なります。
(在留資格認定証明書交付申請)
技能測定試験、および日本語能力試験(JFT-BasicまたはJLPT N4)を受験・合格する必要があります。なお、本分野の技能実習2号を「良好に修了」した場合、これらの試験は免除されます。
対象者と雇用契約を結び、支援計画を策定・実施します。
受入れ企業が、外国人材の代理人として地方出入国在留管理局に申請を行います。
要件を満たしていると判断されれば、出入国在留管理庁から在留資格認定証明書が交付されます。証明書の有効期間は発行日から3か月以内で、この期間内に入国しなければなりません。
外国人材は証明書を持参し、本国の日本大使館または領事館で就労ビザを申請します。発給には数営業日を要するのが一般的です。ビザが発給された後、入国時に空港で在留カードが交付され、正式に就労を開始できます。
(在留資格変更許可申請)
すでに日本に在留している外国人(例:留学生、技能実習生など)でも、特定技能へ在留資格を変更する場合には原則として技能試験および日本語試験の合格が必要です。試験は全国各地で定期的に開催されています。また、技能実習2号修了者はこれらの試験が免除されます。
海外から招聘する場合の手順と同様。
受入れ企業が、外国人材の代理で地方出入国在留管理局へ申請を行います。標準的な処理期間は2週間〜1ヶ月程度とされています。
審査が完了し、許可が下りれば、新しい在留カードが交付され、特定技能外国人としての就労が正式に開始されます。
在留資格の申請手続きは、多くの書類や細かい規定が関わるため、書類不備や記載ミスが申請不許可の原因となることがあります。特に初めて外国人材を受け入れる企業にとっては、手続きの詳細が大きな負担となる可能性があります。このようなリスクを避けるためにも、専門の代行業者等に手続きを委託することが推奨されます。適切な支援を受けることで、スムーズな人材受け入れと安定した雇用環境の構築が可能になります。
最新データから見る造船・舶用工業分野の特定技能外国人材

造船・舶用工業分野における特定技能外国人材の受け入れは着実に進展しており、その動向は今後の人材戦略を考える上で重要な指標となります。
現在の受け入れ状況と推移
特定技能制度開始から5年間での造船・舶用工業分野の受け入れ目標は1万3,000人でした。令和5年6月末時点での受け入れ人数は6,377人であり、目標の約半数に達しています。この数字は、令和4年6月末の2,776人、令和4年度末の4,602人からの着実な増加を示しており、制度活用が加速していることを示唆しています。
特に注目すべきは、特定技能2号の在留者数の増加です。2023年3月末時点では、造船・舶用工業分野での特定技能2号在留者は0名(全体でも11名、全て建設分野)でしたが、2024年6月末には23名にまで増加しています。これは製造業(23名)と並ぶ数字であり、今後さらに増加していく見通しです。
このように、特定技能制度は導入から一定の期間を経て着実に定着しつつあり、特に2号の増加は、外国人材にとって制度が「長期的なキャリアパス」として魅力的であることを示しています。企業にとっても、長期定着を前提とした人材育成・技術継承の観点から、2号人材の確保は大きなメリットとなります。
今後の展望
政府は、特定技能制度の対象分野拡大や既存分野での業務追加を進めており、今後も制度が日本の労働力確保の中心的役割を担うことが予想されています。
外国人材の日本での就労意欲も高く、ある調査では92.3%が「今後も日本で働きたい」と回答し、そのうち76.3%が5年以上働きたいと回答しています。特定技能1号での就労意欲は前年比で18.1ポイント、特定技能2号では7.9ポイントの増加が確認されています。また、技能実習生の特定技能制度に対する理解度も大幅に向上しており、制度の認知と評価が高まっていることが分かります。
特定技能外国人がこの制度を選ぶ理由の第2位には「特定技能2号で長く働ける(31.4%)」が挙げられており、2号の取得が日本での長期就労を志向する外国人にとって大きな動機となっています。
一方で、「円安だから」「他国の方が稼げる」といった理由で日本を敬遠する傾向も一部に見られ、報酬面での競争力維持が今後の重要課題となっています。待遇の改善や生活支援の充実が、外国人材の定着と長期的な雇用維持に不可欠です。
参考:マイナビグローバル「日本在留外国人の日本での就労意欲・特定技能への意識に関する調査結果」を発表|PR TIMES

成功事例から学ぶ外国人材活用のヒント

特定技能制度を活用しながら外国人材を直接、受け入れてきた企業からさまざまな成果が報告されています。ここでは、制度導入による効果が明確に現れている事例を取り上げ、活用のヒントを探っていきましょう
サノヤス造船の事例
株式会社新来島サノヤス造船のフィリピン人・Karganilla Dhizon Rojoさんは、2024年2月に特定技能2号を取得し、2号取得者として活躍しています。来日当初、彼は日本の製造現場で求められる精度やチームワーク、安全文化に戸惑いを感じていましたが、日本語教育とOJTを通じて徐々に適応し、品質管理や進捗管理でも要として頼られる存在に成長しました。Rojoさんは、「技術だけでなく、相手の立場を理解し助け合う意識が最も重要」と語っています。
参考:特定技能2号受け入れ事例紹介|造船業での活躍!モノづくりの本質を求めて|G.A.コンサルタンツ株式会社
因島鉄工株式会社の事例
2023年9月、因島鉄工株式会社は「造船・舶用工業分野特定技能2号(溶接)」試験において、全国で初めて合格者3名(ベトナム出身) を輩出しました。これは広島県が支援する「モデル企業支援事業」の一環として、県やアドバイザーから受験に必要な取組内容のプランニングや、試験対策に関する情報提供を受けた結果です。
広島県は今後も引き続き、特定技能外国人のキャリアアップを目指して支援を実施するとともに、モデル企業の優良な取り組みをセミナーなどで紹介するとしています。
参考:特定技能2号の外国人材が誕生 因島鉄工のベトナム人3人、造船分野で初【海事プレス-9/26】|因島商工会議
これらの事例から見えてくるのは、やはり企業による支援の重要さです。企業や自治体による外国人材への育成は、長期就労や生産性向上に直結します。
MWO申請|特定技能フィリピン人の受け入れのために

造船・舶用工業分野で活躍する特定技能外国人(1号)のうち、一番多いのがフィリピン人で、約半数を占めています(9,665人中5,235人/2024年)。島国であるフィリピンはもともと船舶や海洋産業に対する意欲が高く、日本の造船・舶用工業分野においてもさらなる拡充が見込まれます。
しかし特定技能の分野でフィリピン人人材を雇用するためには、ここまで考慮した点とは別に、MWOへの申請も必須となります。
以前はPOLOという名称で知られていたMWOは、フィリピンのDMW(移住労働者省)の海外出先機関であり、日本では東京と大阪にMWOが設置されています(駐日フィリピン共和国大使館・総領事館内)。
DMWとMWOはフィリピン人労働者の権利保護、福祉の向上、海外雇用の促進と管理を一元的に行うことを目的としています。そのため、特定技能でフィリピン人を採用する際にも、MWOへの申請が義務付けられています。
MWOへの申請手続きは、一般的に以下の流れで進みます。
まず必要な申請書類や資料を準備し、MWO(東京または大阪の事務所)に送付(郵送)します。
次に、MWOによって提出された書類に基づいて審査が行われ、雇用契約の内容などが適切であると判断されれば、フィリピン政府から正式な承認の印とも言える認証が得られます。この承認によって、フィリピン人人材の募集活動が行えるようになります。
フィリピン人人材の募集を行い、採用・雇用契約を結びます。現地の送り出し機関を通じた人材の紹介も行われています。
フィリピン本国のDMWへのOEC申請などは、契約した現地の送り出し機関を介して行いますが、日本のMWO事務所への申請や申し込みは受入れ先が行わなければなりません。
このMWOへの申請は非常に複雑であり、提出書類の形式や内容に不備があると差し戻されるケースもあるため、注意が必要です。そのため時間と手間を省きながら採用を確実なものにするためにも、専門の代行業者を利用することが一般的です。
参考:フィリピン国籍の方々を特定技能外国人として受け入れるまでの手続の流れ|法務省

まとめ:特定技能外国人材の活用で持続可能な造船・舶用工業へ

日本の造船・舶用工業は、深刻な人手不足という構造的課題に直面しており、その解決策として特定技能制度の活用が不可欠な選択肢となっています。この制度は単なる労働力の補填にとどまらず、企業の競争力向上と持続的な成長に寄与する多角的なメリットを提供します。特に、特定技能2号への移行支援は、熟練技能者の長期的な定着と技術継承を可能にし、企業の将来を支える重要な要素です。
とはいえ特定技能外国人材の採用には、多岐にわたる書類準備や複雑な行政手続きを伴うため、企業が自力で行うには相当な時間と専門知識が必要となります。
特にフィリピン人人材を受け入れる際には、国内への手続き以外に、MWOへの申請も必須となります。MWO申請サポートでは企業のニーズに応じた、様々なサポートプログラムを提供しています。
まずは一度、お気軽にご相談ください。
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