フィリピン人採用成功への道:文化と仕事観の違いを知る完全ガイド

日本の生産年齢人口が年々減少し、多くの企業が人材確保に頭を悩ませています。こうした背景のなか、外国人材の採用は、事業の持続可能性を高めるための重要な選択肢となりつつあります。とりわけ、近年注目を集めているのがフィリピン人労働者の存在です。
厚生労働省の統計によると、日本で働く外国人労働者の国籍別内訳では、フィリピン人はベトナム、中国に次いで3位となっています。さらに注目すべきは、「専門的・技術的分野」の在留資格を持つフィリピン人の数が大幅に増加している点です。これは、フィリピン人が単なる労働力不足を補う存在ではなく、専門的なスキルや知識を持つ優秀な人材として、日本社会に定着し始めていることを示唆しています。
しかしながら、フィリピン人の採用を成功させるには、単に制度や手続きを理解するだけでは不十分です。彼らの行動様式や仕事観の根底にある、日本とは異なる独自の文化を深く理解し、尊重することが何よりも大切になります。
本記事では、フィリピン人の採用を検討している企業担当者向けに、フィリピンの文化的な特徴から仕事観、そして採用手続きに至るまでを網羅的に解説し、フィリピン人採用を成功に導くための道筋を示します。
フィリピン文化の基礎知識:日本企業が知るべき文化の違いと特徴

フィリピン人の性格や仕事に対する考え方は、育った文化的背景に深く根ざしています。このセクションでは、行動を理解するうえで重要となる文化要素を整理します。
アジア有数のキリスト教国家が育む国民性
フィリピンはアジアの中でも数少ないキリスト教徒多数派の国で、人口の約九割がキリスト教を信仰しています。そのうち約79%はカトリック教徒であり、宗教は人々の価値観や生活スタイルに深く根づいています。この背景は職場にも影響を及ぼします。
例えばクリスマスや聖週間(ホーリーウィーク)、万聖節など、宗教行事にあわせて休暇を取得する傾向が強く、企業はスケジュール調整が求められます。
ただその一方で、宗教的背景から「助け合い」「思いやり」「コミュニティ重視」の姿勢が強く、年長者を大切にする文化も相まって、組織に良い影響をもたらします。
家族や宗教行事を尊重する企業は「理解のある職場」として認識されやすく、従業員の定着率を高める要因となります。スケジュール調整や勤務制度設計において、この点を考慮することが重要です。
家族が社会の中心を成す「家族第一主義」
フィリピンでは「カパミリア(家族)」という言葉が血縁を超えて親しい友人や地域社会までを指すことがあります。
社会の核となるのは常に家族であり、生活の優先順位も家族が最上位です。病気や冠婚葬祭があれば仕事より家族を優先するのは当然とされ、それが日本企業の「仕事優先文化」と摩擦を生むこともあります。
さらに、低所得層を中心に子どもが多い傾向があり、家計を支えるために海外で働く「OFW(Overseas Filipino Workers)」が増えてきました。
仕送りはフィリピン経済の大きな支えであり、GDPの約9%を占めます。こうした「家族のために働く」という強い動機は、責任感や勤勉さにつながる一方で、家族行事や事情による欠勤の理由にもなり得ます。日本企業はこの文化的特性を理解し、柔軟に対応する姿勢が求められます。
英語が公用語という強み
フィリピンの公用語は、英語とタガログ語です。歴史的背景からアメリカの影響を強く受け、学校教育やビジネス、政府の公文書でも英語が広く使用されています。そのため、多くのフィリピン人は高い英語運用能力を持ち、国際ビジネスを展開する企業にとって大きなメリットとなります。
2023年のEF英語能力指数(EF EPI)では、フィリピンはアジア第2位にランキングされ、世界でも「Very High Proficiency(非常に高い英語能力)」に位置付けられています。ただし、家庭内や地域コミュニティではタガログ語やセブアノ語、イロカノ語などの地方言語も大切にされており、日常的に使用されています。

時間に対する独特な感覚「フィリピン時間」
現地には「フィリピノタイム」という言葉があり、時間に対する感覚は日本とは大きく異なります。約束の時刻に30分程度遅れて到着することは珍しくなく、時には自然なことと受け止められます。日々を柔軟に過ごす生活習慣が背景にあると考えられています。
とはいえフィリピンでも、仕事上では時間を守ることが当たり前と考えられています。特に外資系企業やBPO業界では、日本と同様にシビアに扱われます。
採用やマネジメントの場面では、「時間を守るのは当然」という前提は共有しつつ、遅刻や納期の遅れが生じた場合には文化的背景を理解したうえで改善指導することが有効です。また、スケジュール設定に余裕を持たせるなど制度的な工夫も効果的でしょう。
協調性とプライドを重んじる「パキキサマ」と「ヒヤ」
フィリピン社会では「パキキサマ(協調性)」と「ヒヤ(恥を避ける心)」という二つの社会規範が重視されます。これらは人間関係や職場での行動に大きく作用します。
パキキサマは、集団の調和や人間関係の円滑さを重んじる価値観です。個人の意見よりも、チームや周囲との関係を優先する傾向があります。
そのためフィリピン人の多くは意見の対立や率直な反論を避け、同意や協調を優先する傾向にあります。これは企業にとっては大きなメリットとなるでしょう。
一方で「ヒヤ」の心理から、業務上の不明点や間違いを人前で指摘されることを嫌い、質問や相談をためらうことがあります。結果として、知ったかぶりや誤解が生じ、業務の齟齬やパフォーマンス低下につながる場合があります。
また職場で注意や叱責が必要な場合でも、他の人がいる前で行うことは絶対に避けるべきです。さらに否定的な指摘だけでなく、肯定的フィードバックを組み合わせることで心理的安全性を保つことが大切です。
こうした文化的な背景を理解することで、フィリピン人社員の行動特性を読み解き、マネジメントに活かすことができるでしょう。
参考:Philippine Statistics Authority

現場の声から解き明かす:フィリピン人の性格と仕事観

フィリピン人の特性は文化的側面だけでなく、実際の職場でのパフォーマンスや成長ポテンシャルにも直結します。
ここでは現場の事例から、フィリピン人の性格と仕事観を探っていきます。
介護現場での事例
愛媛県の介護施設では、フィリピン人スタッフをEPAルートで採用。日本語習得や業務適応にはサポートが必要ですが、利用者への対応や日常ケアで即戦力として活躍しています。スタッフは笑顔で丁寧な対応を行い、施設の雰囲気を明るく保っていると報告されています。
- 家族・コミュニティ重視
- 家族思いの文化が利用者への配慮やチームワークに表れる。
- 明るさとホスピタリティ
- 利用者や同僚への細やかな気配りが自然にできる。
- 責任感
- 業務に対して誠実で、指示されたことを確実に遂行する。
特に介護施設では接遇・共感力が顧客満足に直結するため、フィリピン人の対人スキルが強みになります。

リゾート・宿泊業での事例
三重県のリゾート施設では、明るくホスピタリティ精神に富むフィリピン人女性を特定技能制度で採用。リネン業務や顧客対応で活躍し、施設の接客クオリティ向上に貢献しています。
スタッフの笑顔やフレンドリーさが顧客満足度を向上させ、既存スタッフとの関係も良好だと報告されています。
- ホスピタリティ精神
- 顧客対応で高い評価を受ける。
- 協調性
- チームとの協働がスムーズで、職場の雰囲気を明るくする。
- 学習意欲
- 研修や業務経験から早期に必要スキルを吸収する。
リゾート現場では、明るさと協調性が顧客満足とチーム活性化に直結する強みとなります。

製造業での事例
産業機械の設計・製造を手掛ける企業は、求人媒体を通じてフィリピン人技術者を採用しました。
採用した人材は既に設計の経験とコンピュータ(CAD等)スキルを有しており、数週間で独り立ちのめどが立つほど早期に現場に貢献しています。
代表者は「日本人より向上心が高い」と評価しており、翻訳ツールを併用しながら日本人スタッフと密に連携していると報告しています。
- 勤勉さ・責任感
- 与えられた業務を確実にこなし、短期間で自立する傾向。
- 自主性
- 不明点は自ら考え対応する姿勢が報告されている。
- 実務即応力
- 既存スキル(CAD等)を持つ人材は研修コストが低く即戦力化しやすい。
高度な技術をもつフィリピン人材は、その勤勉さと相まって企業の即戦力となり得ます。事前に職務要件を明確にし、動画履歴書やスキルテストで実務能力を確認するとミスマッチが減るでしょう。
参考:製造業の人手不足を解決!即戦力となる優秀な外国人採用事例を公開|PR TIMES

IT業界の事例
日系・外資系を問わず、セブ島をはじめフィリピン各地にオフショア開発拠点を置く企業が増えています。
現場からの報告では、英語力をベースにドキュメント理解・技術習得が速く、納期遵守を重視する意識が高いと評価されています。
- 納期意識・勤勉さ
- プロジェクトの締切を重視し、タスク完遂に強い責任感を示す。
- 学習意欲
- 英語での教材やドキュメントを自力で読み、知識を吸収するスピードが速い。
- 英語能力
- 英語ネイティブ人材は、IT関連の最新情報や技術などに関する理解度が高い。
英語が公用語の一つというフィリピン人の強みが、特にIT業界では遺憾なく発揮されています。
参考:DASH Engineering Philippines導入事例|ウイングアーク 1st
これらの事例から見えてくるのは、「文化的な違い」は摩擦を生み出すわけではなく、むしろ組織の強みに変えることが可能だということではないでしょうか。
フィリピン人の文化的背景や性格、仕事観を理解しておけば、彼らの存在は必ずや企業のストロングポイントとなることでしょう。

フィリピン人との文化の違いを乗り越える企業戦略

とはいえ、フィリピン人の強みを活かすには、文化的な違いを乗り越えるコミュニケーションや対策が不可欠です。
その点で、企業が取るべきポイントをまとめました。
叱り方とフィードバックの基本:プライドを尊重する指導法
人前での叱責は強い恥(ヒヤ)を生み、職場での居心地の悪化や離職につながることが聞き取りで報告されています。
そのため叱る・指導する際は、必ず個別で行い、語調は穏やかに、建設的に進めてください。
叱責テンプレ
1. ポイントの冒頭(肯定) | 「いつも丁寧に対応してくれてありがとう。今日は確認したいことが一つあります。」 |
---|---|
2. 問題の具体化(事実) | 「◯月◯日の業務で、××の手順が抜けていました。結果として△△が発生しました。」 |
3. 改善と伴走(提案) | 「今後は□□のチェックリストを使いましょう。私も初回は一緒に確認します。次の週に進捗を見せてください。」 |
公開の場での注意は避ける。叱責は「一対一」で行い、まず肯定→事実→改善策の順で進めると効果的です。
明確な指示とルールの重要性
フィリピン人従業員と働く際には、曖昧な表現を避けることが重要です。たとえば、「できるだけ早く」や「いつものように」といった抽象的な指示は、人によって解釈が異なり、業務のズレやトラブルの原因となります。
フィリピン人は「ケースバイケースで判断しろ」という指示を嫌い、明確なルールがあることを好む傾向があります。これは、判断ミスによって「ヒヤ」を感じることを避けたいという心理と関連しています。
この傾向を理解し、詳細なマニュアルやルールブックを整備することは、彼らの安心感につながるだけでなく、業務の属人化を防ぎ、結果的にマネジメントにかかるコミュニケーションコストの削減に繋がります。
指示を出す際には、口頭だけでなく、図やメモを使って視覚的にサポートし、最後に理解度を確認する時間を取り入れる習慣をつけましょう。
指示テンプレ
1. 成果物(Deliverable) | 何を出すのか(例:月次報告のフォーマットでA4 1枚) |
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2. 期日(Due date) | いつまでに(例:毎月10日17:00) |
3. 基準(Quality standard) | 合格ライン(例:数値の誤差±2%、チェックリスト7項目すべて完了) |
口頭→書面(メール・チャット)→図/チェックリスト の順で伝え、最後に「理解度確認」を入れる(例:「ここまでで質問ありますか?」)。記録があると後の齟齬が減ります。
質問しやすい仕組みを作る(心理的安全性の担保)
- 毎週の1対1(短時間でOK)で小さな疑問を拾う。
- 匿名で質問できるフォーム(週1回集約)を用意する。
- バディ制度で最初の3ヶ月を伴走。
これらは「恥をかかない」安心感を生み、結果的に業務効率が上がります。
文化的な違いを理解し、明確な指示・安心できる環境・個別指導を組み合わせることで、フィリピン人従業員の責任感・ホスピタリティ・学習意欲を最大化できる。
家族観を尊重する職場環境づくり
フィリピン人にとって、家族は仕事よりも大切なものです。そのため、家族の事情で残業を断ったり、急遽休暇を申請したりするケースは当然のこととして起こりえます。
このような場面で、日本企業がフィリピン人従業員の家族観を尊重し、柔軟な姿勢を見せることが重要です。
企業がフィリピン人社員の家族事情に理解を示すことは、「私たちの価値観を理解し、尊重してくれている」という強いメッセージとなり、従業員の会社への帰属意識や忠誠心(ロイヤリティ)を格段に高めます。
この信頼関係の構築こそが、彼らが「出稼ぎ」という目的を超えて、長期的に日本で働き続けたいと考える最大の理由となりうるのです。
家族配慮の運用例
- 緊急家族休(有給/特別休)ポリシー:年1〜2日の枠を設ける。
- 宗教行事の前後に有給付与のガイドラインを設ける(Holy Week等)。
- シフト交換ルールと代替要員手配フローを明文化する。
- 家族事情での早退を申請しやすいワークフロー(チャット+承認フロー)。
文化的な違いを理解し、明確な指示・安心できる環境・個別指導を組み合わせることで、フィリピン人従業員の責任感、ホスピタリティ、学習意欲を最大化できるでしょう。

フィリピン人採用に必須のMWO申請

フィリピン人を採用するには、日本側での必要な手続きに加えて、フィリピン側での手続き(MWO申請)も行わなければなりません。
以前はPOLOという名称で知られていたMWOは、フィリピンのDMW(移住労働者省)の海外出先機関であり、日本では東京と大阪にMWOが設置されています(駐日フィリピン共和国大使館・総領事館内)。
DMWとMWOはフィリピン人労働者の権利保護、福祉の向上、海外雇用の促進と管理を一元的に行うことを目的としています。そのため、国外からフィリピン人を採用する際には、MWOへの申請が義務付けられています。ただし、すでに日本で就労しているフィリピン人の採用の際には、MWOへの申請は不要です。
MWOへの申請手続きは、一般的に以下の流れで進みます。
まず必要な申請書類や資料を準備し、MWO(東京または大阪の事務所)に送付(郵送)します。
次に、MWOによって提出された書類に基づいて審査が行われ、雇用契約の内容などが適切であると判断されれば、フィリピン政府から正式な認証が得られます。この承認によって、フィリピン人人材の募集活動が行えるようになります。
フィリピン人人材の募集を行い、採用・雇用契約を結びます。
このMWOへの申請は非常に複雑であるため、時間と手間を省きながら採用を確実なものにするためにも、専門の代行業者を利用することが一般的です。

MWO申請サポートへの手数料
MWO申請サポートでは、企業のニーズに応じて様々なサポートプランを提供しています。
プラン名 | 主な内容 | 税抜料金 |
---|---|---|
フルサービスパック | 書類作成・翻訳・提出代行・面接通訳・送り出し機関紹介など、すべて含まれる | 98,000円 |
書類パックのみ | 英文申請書類作成+日本語翻訳+記入サンプルなどの一式 | 45,000円 |
日本語サポートのみ | メール・電話での日本語サポート(記入確認や質疑応答など) | 45,000円 |
翻訳のみ | 日本語記入済内容を英語申請書へ翻訳記入 | 45,000円 |
面接時通訳 | MWO面接時に立ち会う通訳者の手配 | 45,000円 |
フィリピン独自の複雑な手続きは、専門家のサポートを得ることで、企業側の労力を削減できます。
自社がどんな申請代行サービスを必要としているかを良く見極めて、依頼なさって下さい。
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まとめ:文化理解から始まるフィリピン人採用

フィリピン人採用は、日本の企業が直面する人材不足の課題を解決する強力な手段となります。彼らが持つ明るさ、高いホスピタリティ精神、そして勤勉さは、多くの職種で事業に新たな活気と価値をもたらすでしょう。
しかし、そのポテンシャルを最大限に引き出すには、彼らの文化と価値観を深く理解することが不可欠です。
さらに採用を成功させるためには、MWO申請をはじめとする複雑な手続きを正確に進めることも不可欠。こうした手続きを円滑に進めるためには、専門家のサポートを活用することが一番の近道と言えるでしょう。
MWO申請サポートでは皆様のニーズに応じた、様々なサポートプログラムを提供しています。
まずは一度、お気軽に弊社までご相談ください。
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