宿泊分野の特定技能|採用担当者が知るべき全知識

日本政府が掲げる観光立国の実現に向け、宿泊業界では訪日客の増加に伴い需要が回復する一方で、人手不足という問題が一段と深刻になっています。多くの旅館やホテルなどの宿泊施設においては、即戦力となる業(わざ)を備えた人材の確保が喫緊の経営課題となっています。その有効な解決策として現在注目を集めているのが、在留資格「特定技能」です。
本記事では、宿泊分野で特定技能外国人の採用を検討されている企業の採用担当者様に向けて、制度の概要、採用要件、手続きの流れ、受入れ前後の支援の方法まで、必要な情報を漏れなく紹介します。特定技能制度への理解を深め、採用活動における不安や疑問の解決のために、ぜひお役立て下さい。
そもそも特定技能とは?宿泊分野で注目される理由

まずは、特定技能制度の基本的な仕組みと、その中でも宿泊分野が重要視される背景について解説します。
特定技能制度の概要と目的
特定技能制度は、国内の深刻な人手不足に対応し、専門性・技能を有する即戦力となる外国人材を受け入れることを目的として、2019年4月に創設された在留資格制度です。政府が指定した産業分野に限り、外国人は原則として同一分野内の業務に従事できます。この制度の狙いは、単なる労働力確保に留まらず、日本の経済・社会基盤の維持・強化を図ることにあります。
宿泊分野で特定技能が必要とされる理由
- インバウンド需要の急増
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新型コロナ収束後、訪日外国人旅行者数は2024年に3,687万人と、コロナ前の水準を大きく上回りました。多くの旅館・ホテルでは、増加する宿泊需要に対し人員が不足している状況です。
- 日本人人材の採用難
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少子高齢化や都市部への人口集中により、地方や中小規模施設では日本人の採用が難しく、空きが埋まりにくい傾向があります。
- 即戦力の確保手段
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特定技能1号では、技能試験や日本語能力試験(N4以上)が課され、業務に必要なスキルを有する人材を直接雇用できます。試験合格者は入国後すぐに業務に携われるため、人手不足解消への即効性が期待されます。
参考:訪日外国人旅行者数・出国日本人数 | 観光統計・白書|観光庁
在留資格「特定技能」1号と2号の違い
特定技能には「1号」と「2号」の2つの区分があり、求められる技能水準や在留期間などが異なります。
特定技能1号 | 特定の産業分野において、相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。 在留期間は通算で上限5年となっており、家族の帯同は基本的に認められません。 |
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特定技能2号 | 特定の産業分野において、熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。 在留期間の更新に上限がなく、要件を満たせば配偶者や子の帯同も可能です。 |
2023年6月9日の閣議決定により、宿泊も特定2号の対象となりました。そのため、宿泊の分野で外国人人材を受け入れる企業は当面の人手不足対策としてだけではなく、長期的な視野で外国人人材を受け入れることが可能になりました。
- 長期定着へのモチベーション
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1号は最大5年での在留期限がある一方、2号には在留期間の上限がありません。家族帯同が可能になることで、単身赴任による孤立感やストレスが軽減され、長期的な定着促進につながります。
- 企業にとっての戦略的メリット
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2号は「無期限」で熟練外国人材を基幹労働力として確保できるため、人材育成計画に組み込みやすく、採用から定着まで一貫したキャリアパスを提供しやすくなります。
技能実習制度との比較
特定技能とよく混同されがちなのが、技能実習制度です。しかしこの2つは別の制度であり、目的や制度が大きく異なります。
技能実習 | 特定技能 | |
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主な目的 | 技能・技術移転による国際貢献 | 国内の人手不足解消 |
従事可能業務 | 実習計画に限定 | 同一分野内で幅広い業務 |
転職の可否 | 原則不可 | 同一分野内で可能 |
制度の仕組みとしては、技能実習制度は技術の移転を主眼とした国際貢献が目的です。一方の特定技能は日本の人手不足解消を目的とした、人材確保のための就労を目的とする制度です。
原則として、技能実習生は実習計画に基づいた業務にしか従事できませんが、特定技能外国人はより広い範囲の業務を担当できます。

特定技能「宿泊」分野の受入れ要件と対象業務

特定技能外国人を宿泊分野で受け入れるためには、企業側(受入れ機関)と外国人材側の双方が、定められた基準を満たす必要があります。
受入れ機関(企業側)が満たすべき基準
外国人を雇用する企業は、以下の基準や法令を満たす必要があります。
要件 | 内容 |
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法令遵守 | 労働関係法令、社会保険、租税法を適切に履行していること |
雇用契約の適正 | 報酬額が日本人従業員と同等以上など、条件が公正であること |
支援体制の整備 | 支援計画を作成・実施し、生活・業務両面のサポート体制があること |
営業許可 | 旅館業法・ホテル営業法に基づく許可を取得していること |
風俗営業等の非該当 | 風俗営業関連の業務を行っていないこと |
これらの基準は、外国人が安定して日本で生活し、就労できる環境を保証するために設けられています。
宿泊分野分野特定技能協議会への加入
特定技能外国人の受入れ機関は、在留資格「特定技能」の申請に先立ち、関連する協議会の構成員であることを証明する書類(入会通知書)を提出しなければなりません。宿泊分野においては、宿泊分野特定技能協議会への加入が求められています。
この協議会は、制度の適正な運用、受け入れ機関への情報提供、地域ごとの人手不足の状況把握などを目的としています。
参考:宿泊分野特定技能協議会 | 宿泊分野における外国人材受入れ(在留資格「特定技能」) | 観光地域及び観光産業の担い手の確保|観光庁
外国人材側が満たすべき基準
一方、特定技能外国人として就労を希望する人材は、以下の技能水準と日本語能力水準の両方を満たさなければなりません。
技能水準 | 「宿泊分野技能測定試験」に合格すること。 |
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日本語能力水準 | 「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」に合格、または「日本語能力試験(JLPT)」のN4以上に合格すること。 |
ただし、宿泊分野の技能実習2号を良好に修了した外国人は、これらの試験が免除されます。
宿泊分野における対象業務の範囲
特定技能外国人が従事できる業務は、旅館やホテルにおけるフロント、企画・広報、接客、レストランサービス等の宿泊サービス職種に係る業務全般です。これには、いわゆる「付随業務」として、日常的に実施されている関連する実務(例:清掃やバスの運転等)に付随的に従事することも可能です。
業務区分 | 主な業務内容 |
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フロント業務 | チェックイン・チェックアウト、予約管理、観光案内、問い合わせ対応 |
接客・レストランサービス業務 | 食事の提供、テーブルセッティング、料理説明、ホールサービス |
客室関連業務 | 客室清掃、ベッドメイキング、アメニティ補充、備品点検・交換 |
企画・広報業務(付随) | イベント・キャンペーン企画、館内案内パンフレットやチラシの作成 |
送迎バス運転(付随) | 送迎バスの運転、乗降誘導、簡易な車両点検 |
対象とならない業務
専門性が低いとされる業務、例えば、客室のシーツ交換や清掃のみ、施設の維持管理のみといった単一の作業に終始する業務は、特定技能の対象とはなりません。幅広い宿泊サービス業務に横断的に従事することが求められます。
また、以下の分野における業務も対象外となります。
項目 | 内容例 |
---|---|
接待業務 | 風俗営業法第2条第3項に規定する「接待」 |
風俗営業法上の「施設」での業務 | ラブホテル等、同法第2条第6項第4号に該当する施設内業務 |
経営・管理業務 | 経営方針策定、マーケティング戦略立案など |
管理職業務 | 従業員の採用面接、研修計画の作成・実施 |
専門的調理業務・メニュー開発 | 料理の調理、メニュー考案(外食業分野資格が必要) |
参考:特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領-宿泊分野の基準について- |法務省・国土交通省

特定技能外国人の採用から就労開始までの流れ

特定技能の在留資格を申請する際、外国人材が「国外にいる場合」と「日本国内に在留している場合」とで、手続きや必要書類が異なります。以下、それぞれの流れを解説します。
技能測定試験、および日本語能力試験(JFT-BasicまたはJLPT N4)を受験・合格する必要があります。なお、宿泊分野の技能実習2号を「良好に修了」した場合、これらの試験は免除されます。
対象者と雇用契約を結び、支援計画を策定・実施します。
受入れ企業が、外国人材の代理人として地方出入国在留管理局に申請を行います。
要件を満たしていると判断されれば、出入国在留管理庁から在留資格認定証明書が交付されます。証明書の有効期間は発行日から3か月以内で、この期間内に入国しなければなりません。
外国人材は証明書を持参し、本国の日本大使館または領事館で就労ビザを申請します。発給には数営業日を要するのが一般的です。ビザが発給された後、入国時に空港で在留カードが交付され、正式に就労を開始できます。
すでに日本に在留している外国人(例:留学生、技能実習生など)でも、特定技能へ在留資格を変更する場合には原則として技能試験および日本語試験の合格が必要です。試験は全国各地で定期的に開催されています。また、技能実習2号修了者はこれらの試験が免除されます。
海外から招聘する場合の手順と同様。
受入れ企業が、外国人材の代理で地方出入国在留管理局へ申請を行います。標準的な処理期間は2週間〜1ヶ月程度とされています。
審査が完了し、許可が下りれば、新しい在留カードが交付され、特定技能外国人としての就労が正式に開始されます。
在留資格の申請手続きは、多くの書類や細かい規定が関わるため、書類不備や記載ミスが申請不許可の原因となることがあります。特に初めて外国人材を受け入れる企業にとっては、手続きの煩雑さが大きな負担となる可能性があります。このようなリスクを避けるためにも、専門の代行業者等に手続きを委託することが推奨されます。適切な支援を受けることで、スムーズな人材受け入れと安定した雇用環境の構築が可能になります。

特定技能人材への支援体制と評価

「特定技能外国人の採用から就労開始までの流れ」の章にもあったように、特定技能外国人を雇用する企業には、彼らが日本で安心して働き、生活できるよう複数の支援を行う義務があります。
受入れ機関(企業)が実施すべき義務的支援の内容
法律で定められた支援(義務的支援)は以下の10項目です。
- 入国前の事前ガイダンス
- 出入国する際の送迎
- 住居確保・生活に必要な契約支援
- 生活オリエンテーションの実施
- 公的手続等への同行
- 日本語学習の機会の提供
- 相談・苦情への対応
- 日本人との交流促進
- 転職支援(非自発的離職時)
- 定期的な面談の実施
採用に至るまでの過程はもちろんのこと、就業後も定期的な面談などを通して外国人材の働きぶりをしっかりと評価することが求められています。
登録支援機関への委託
上記の支援計画の作成・実施は、専門的な知識や多言語対応が必要となるため、企業の負担が大きくなる場合があります。その場合、出入国在留管理庁長官の登録を受けた「登録支援機関」に支援計画の全部または一部の実施を委託することが可能です。
多くの企業がこの登録支援機関を活用しており、専門的なサポートを受けることで、コンプライアンスを確保しつつ、本来の事業への活動に集中することができます。
参考:1号特定技能外国人支援・登録支援機関について | 出入国在留管理庁
MWO申請|特定技能フィリピン人の受け入れのために

特定技能の分野でフィリピン人人材を雇用する場合、ここまで考慮した点とは別に、MWOへの申請も必須となります。
以前はPOLOという名称で知られていたMWOは、フィリピンのDMW(移住労働者省)の海外出先機関であり、日本では東京と大阪にMWOが設置されています(駐日フィリピン共和国大使館・総領事館内)。
DMWとMWOはフィリピン人労働者の権利保護、福祉の向上、海外雇用の促進と管理を一元的に行うことを目的としています。そのため、特定技能「宿泊」でフィリピン人を採用する際にも、MWOへの申請が義務付けられています。
MWOへの申請手続きは、一般的に以下の流れで進みます。
まず必要な申請書類や資料を準備し、MWO(東京または大阪の事務所)に送付(郵送)します。
次に、MWOによって提出された書類に基づいて審査が行われ、雇用契約の内容などが適切であると判断されれば、フィリピン政府から正式な承認の印とも言える認証が得られます。この承認によって、フィリピン人人材の募集活動が行えるようになります。
フィリピン人人材の募集を行い、採用・雇用契約を結びます。現地の送り出し機関を通じた人材の紹介も行われています。
フィリピン本国のDMWへのOEC申請などは、契約した現地の送り出し機関を介して行いますが、日本のMWO事務所への申請や申し込みは受入れ先が行わなければなりません。
このMWOへの申請は非常に複雑であるため、時間と手間を省きながら採用を確実なものにするためにも、専門の代行業者を利用することが一般的です。
参考:フィリピン国籍の方々を特定技能外国人として受け入れるまでの手続の流れ|法務省


特定技能「宿泊」に関するよくある質問(FAQ)

最後に、よく寄せられる質問とその回答をまとめました。
まとめ

人手不足が顕著な宿泊業界において、特定技能外国人の存在は企業の成長、ひいては日本の観光産業の発展に繋がります。しかし彼らを採用するためには特定技能制度を正しく理解し、適切に活用することが不可欠です。
とはいえ、特定技能外国人の採用手続きは複雑で、申請に必要な書類も多岐にわたります。また、受け入れ後の支援計画の策定や実施には専門的な知識が求められます。そのため、専門機関や支援センターによる協力やサポートを得ることが、採用への一番の近道と言えるでしょう。
特にフィリピン人人材を受け入れる際には、国内への手続き以外に、MWOへの申請も必須となります。MWO申請サポートでは皆様のニーズに応じた、様々なサポートプログラムを提供しています。
まずは一度、お気軽にご相談ください。
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