特定技能フィリピン人の一時帰国&再入国に必要な申請手続きと注意点

日本の深刻な労働力不足を背景に、特定技能制度を活用したフィリピン人材の雇用がますます注目を集めています。明るく勤勉なフィリピン人の労働者は、特に介護や製造業といった分野において即戦力となり得る貴重な存在です。多くの企業がフィリピン人労働者と雇用契約を結び、安定した人材確保を行っています。
しかし、彼らが一時帰国する際の手続きについて、「日本の出入国手続きさえ行えば問題ないだろう」と安易に考えてしまうと、思わぬ問題に直面する可能性があります。日本の在留資格制度に加え、フィリピン政府が定める独自のルールを理解していなければ、大切な人材が再入国できない事態に陥りかねないからです。
本記事では、フィリピン人特定技能人材の一時帰国手続きを円滑に行うために必要な知識を整理し、企業担当者が押さえておくべきポイントを解説します。

フィリピン特定技能人材が日本へ再入国するために必要な手続きとは

特定技能で就労するフィリピン人が一時帰国し、再び日本へ戻る場合には、日本側とフィリピン側のそれぞれの手続きを満たさなければなりません。
日本側の手続き | 出入国在留管理庁が管轄する「再入国」に関する制度 |
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フィリピン側の手続き | フィリピン政府が管轄する「自国からの出国」に関する制度 |
両方の要件が揃わなければ、空港で出国が止められる、または日本に入国できないといった事態につながります。企業はこの両輪を理解し、サポートする必要があります。
日本側の手続き:みなし再入国許可と再入国許可
有効な在留カードとパスポートを所持し、出国日から1年以内(ただし在留期間の満了日がそれより早い場合はその日まで)に再入国する意思がある場合、原則として事前申請不要で「みなし再入国許可」が適用されます。これは出国時に再入国出国記録(EDカード)の該当欄にチェックを入れるだけで成立し、手数料もかかりません。
特定技能労働者の場合
特定技能(1号)のフィリピン人材の場合、在留期間は6か月または1年ごとの更新が多く、帰国も数週間から数か月程度であることがほとんどです。そのため、実務的にはみなし再入国許可で足りるケースが大半です。企業が在留カードの有効期限をきちんと管理していれば、通常は追加の再入国許可を取る必要はありません。
再入国許可が必要になる例外ケース
ただし、以下のようなケースでは事前に「再入国許可」の申請が必要となります。
- 在留期間の残りが短く、再入国予定日が満了日を超えてしまう場合
- 特定技能2号など長期在留資格を持ち、事情により1年以上帰国する場合
再入国許可には「1回限り有効」と「数次有効」があり、有効期間は在留期間の範囲内で最長5年間です。手数料は随時改定されるため、申請前に最新の案内を必ず確認してください。
参考:みなし再入国許可(入管法第26条の2) | 出入国在留管理庁
フィリピン側の手続き:OEC(Overseas Employment Certificate)が鍵
フィリピン政府は、海外で就労する自国民に対しOEC(Overseas Employment Certificate)の取得を原則として求めています。OECは事実上の出国クリアランスであり、通常はこれを所持していなければフィリピンの空港で出国審査を通過できず、日本への再入国も不可能となります。
つまり、日本側でみなし再入国許可を得ていても、OECがなければフィリピンを出国できない可能性があるのです。
なぜOECが必要か
OECが一時帰国・再出国時に重要視される理由は大きく分けて次の4点です。
- 出国用の公式な許可(exit clearance)だから
- フィリピン政府はOECを、海外就労者が適正な雇用関係にあることを確認するための出口許可として運用しています。これがないと空港で出国手続きを止められるリスクがあります。
- 雇用関係の適正性が政府により確認されている証明になるから
- OECは、雇用契約や手続きが政府によって適正と判断された証拠となります。
- 各種優遇や保護サービスの入り口になるから
- OEC所持者は旅行税や空港利用料の免除を受けられる場合があります。また、MWO・DMW経由でトラブル時の保護や支援を受けやすくなります。
- 不正な仲介や不適切な契約を防ぐ仕組みだから
- 政府による事前確認が入ることで、不当なブローカーや違法雇用を避けやすくなります。
特定技能フィリピン人の場合の注意点
通常、フィリピン人特定技能労働者が一時帰国する場合は、毎回OECが必要となります。特に初回や契約更新時など、雇用契約やMWO・DMW登録内容が確認されるタイミングでは必須となります。
- 在留カードの有効期限(在留期間満了日)を把握すること。
- 出国予定が「出国から1年以内」か否かを確認し、みなし再入国許可の適用可否を判断する。
- 1年超の出国やみなし適用外の場合は、再入国許可(1回/数次)を事前申請する。
- フィリピン側のOECの有無(またはBalik Manggagawa等の免除該当)を確認する。オンライン登録やMWO窓口での手続きが必要になることがある。
- パスポートの残存有効期間(渡航先・手続きで異なるが、目安として6か月以上を確認)や、必要書類(在留カード・雇用契約書等)を揃える。
このように、特定技能フィリピン人の一時帰国&再入国にまつわる手続きは、日比両国で連動しています。どうしても実務担当者は日本側の在留管理に注意が行きがちですが、フィリピン側のOECや契約確認、必要な講習や登録が整わなければ、出国そのものが止まるリスクがあります。
(1)在留カードとパスポート、(2)出国・再入国の日程、(3)OECの有無をワンセットで確認する運用を作ることが最もトラブルを防ぐ近道となります。
参考:DMW

フィリピンでの手続き:OECの申請から取得までの流れ

OECはフィリピン人労働者自身が申請・取得する書類ですが、その前提として、受入れ企業がフィリピン政府に正式に登録されている必要があります。
この手続きは「DMW(Department of Migrant Workers:移民労働者省)」が管轄し、日本にある出先機関である「MWO(Migrant Workers Office)」が窓口となります。
OECは一時帰国するたびに必要となる継続的な手続きであり、企業のDMW登録も常に維持・更新される必要があります。
OEC申請は企業登録が前提
OEC発行のプロセスは、企業がフィリピン政府に「正規の雇用主」として認められることから始まります。具体的には以下の流れです。
企業は公認送り出し機関(PRA)を通じ、MWOに企業登録を行います。
雇用契約書、会社情報、納税証明書などを提出し、MWOが雇用条件の公正性を審査します。
MWOの承認後、企業に登録推薦書が発行されます。これをもとに送り出し機関がDMWに企業登録を申請します。
この一連の手続きを経て初めて、OEC発行の前提条件が整います。
提出済み書類(雇用契約内容など)に変更がないか確認します。変更がある場合は事前対応が必要です。
企業と労働者で帰国期間を確認し、余裕を持ったスケジュールを立てます。
フィリピン入国前に、MWOオフィスまたはDMW本国オフィスで申請します。原則として本人が申請しなければなりませんが、Balik Manggagawa(同一雇用主への復帰者)の場合、eOECのオンライン申請で一部代理手続きが認められることがあります。
申請が認められるとOECが発行されます。OEC所持者は、帰国時の諸手続きが簡素化される場合があります。
空港のDMWカウンターでOECを提示し出国手続きを完了させます。
書類の不備や雇用契約の変更があると手続きが遅れる可能性があるため、事前確認が不可欠です。
転職者や直接雇用の場合の注意点
- 日本国内で特定技能の在留資格を持つフィリピン人材を転職者として雇用する場合も、MWO・DMWへの企業登録は必要です。
- 日本の人材派遣会社はMWOと直接やり取りできないため、受け入れ企業自身が手続きを行うか、専門サポートを利用する必要があります。
- フィリピン政府は原則として認定送出機関を介さない直接雇用を禁じています。免除申請は可能ですが、承認されるのは非常に限られています。
こうした複雑な手続きに対応するには、行政書士や登録支援機関などの専門サポートを活用することが重要です。
参考:フィリピン国籍の方々を特定技能外国人として受け入れるまでの手続の流れ|出入国在留管理庁
企業の特定技能人材支援義務と一時帰国サポート

日本の特定技能制度では、外国人材が安定して日本で活動できるよう、受入れ企業に対し10項目の支援を義務付けています。
この10項目の中には一時帰国やOEC申請に関する支援は明示されていませんが、外国人材の生活や就労の安定に直結するため、企業としては十分なサポートを行うことが期待されています。
もしOECが取得できず再入国が止められる事態になると、本人にとっても企業にとっても大きな損失となります。そのためこのリスクを未然に防ぐためのサポートは、支援義務の範囲内と捉えるのが妥当でしょう。
支援の考え方
- 支援は「事前の案内」と「事後のフォロー」の双方を含みます。
- 出国・再入国に関する手続きは日本側とフィリピン側で別個に存在します。両方をセットで確認することが重要です。
- OECは労働者本人が申請する書類ですが、企業が情報提供や手続き支援を行うことでトラブルを防げます。
- OECが未取得で出国・再入国に支障が出た場合、企業も人材も重大な損失を被り得ます。したがって支援は「善管注意義務の理念」に沿った行為といえます。
実務対応
- 在留カードとパスポートの有効期限を常に把握する。
- 出国予定が「1年以内」か「1年超」かで再入国方法が変わるため、日程を早期に確定する(みなし再入国許可の可否)。
- 労働者に対してOECの役割と取得方法を事前に説明する。
- 企業のDMW・MWO登録状況を定期的に確認する。登録情報に変更があれば速やかに更新する。
- 転職や雇用条件の変更がある場合は、OEC発行可否や追加手続きを確認する。
- 手続きの進捗と控えは記録保管し、労働者と共有する。
企業向けチェックリスト
手続き項目 | 担当 | 必須書類(例) | 備考 |
---|---|---|---|
企業のDMW・MWO登録確認 | 企業担当 | 登録証、会社情報 | 登録番号・有効期限を記録すること |
在留カード・パスポート確認 | 企業・本人 | 在留カード、パスポート | 有効期限(在留満了日、残存期間)を明示 |
OEC申請の案内 | 企業 | 雇用契約書の写し | オンライン(eOEC)の案内を行う |
OEC取得(本人手続き) | 本人 | パスポート、雇用契約等 | 免除該当(Balik Manggagawa等)を確認 |
再入国許可(必要時) | 企業・本人 | 在留カード、申請書 | 1年超の出国などで事前申請が必要 |
契約変更確認 | 企業 | 契約書、就業条件書 | 変更がある場合はDMW・MWOへ報告が必要なことあり |
出国・再入国の最終確認 | 企業・本人 | OEC、パスポート、在留カード | 空港での提示物を事前にリスト化する |
記録保管 | 企業 | 申請控え、支援記録 | 保存期間と保管場所を定める |
- 支援計画書(社内用)を作成し、毎回の一時帰国で更新すること。
- OECの申請履歴、再入国許可の控え、連絡記録を労働者ごとに保存すること。
- 手続きのチェックリストはデジタル化し、期日リマインドを設定することを推奨します。
MWO・DMWとは?

特定技能制度におけるフィリピン人の手続きを理解する上で、MWOとDMWの役割を把握することは非常に重要です。
DMW(移民労働者省)はフィリピン人労働者の海外での就労を管理し、彼らの権利と福利厚生を保護することを目的としたフィリピン政府の機関です。
そしてMWO(移住労働者事務所)は、そのDMWの日本にある出先機関であり、日本では東京都大阪に事務所が設置されています。
MWOの重要性
MWOが目指すのは、フィリピン国外でフィリピン人が働く際に不当な扱いを受けたり、搾取されたりすることを防ぐことです。MWOの働きによって、フィリピン政府は海外で雇用されるフィリピン人労働者の権利と福祉の保護を行っています。その制度には、以下の点が含まれます。
- 労働条件の適正化
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雇用契約の内容がフィリピンの労働法に準拠しているか、労働者の権利が適切に守られているかを確認します。これにより、劣悪な労働条件での雇用を未然に防ぎます。
- 不正な募集活動の防止
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違法な人材紹介や高額な手数料の徴収等、不正な募集活動から同国人を保護します。
- 労働者の安全確保
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海外での生活や就労における安全対策が講じられているか、緊急時のサポート体制が整っているかを確認します。
この制度は、日本で働くことを希望するフィリピン人たちにとって、安心して働くための基盤となります。さらに雇用主である日本の企業にとっても、適法な雇用プロセスを経ることで、将来的なトラブルを回避し、信頼性の高い外国人雇用を行うことができるという重要性があります。
そのため、特定技能のフィリピン人が一時帰国&再入国する際にも、MWO・DMWへの申請が必要となるのです。

専門家によるビザ・MWO申請代行

特定技能フィリピン人の一時帰国にまつわるOECの取得、または新たに採用する際のMWOへの申請手続きや書類の準備は複雑で、専門的な知識を要します。
そのため、多くの企業が行政書士を始めとする専門業者にビザやMWO申請の代行業務を依頼しています。
特にフィリピン人労働者の雇用に必要なMWO申請手続きについては、専門の代行業者に依頼するのが企業にとってはトータルで考えて時間とコストの削減に繋がります。
MWO申請サポートでは、企業のニーズに応じて様々なサポートプランを提供しています。
MWO申請サポートへの手数料
プラン名 | 主な内容 | 税抜料金 |
---|---|---|
フルサービスパック | 書類作成・翻訳・提出代行・面接通訳・送り出し機関紹介など、すべて含まれる | 98,000円 |
書類パックのみ | 英文申請書類作成+日本語翻訳+記入サンプルなどの一式 | 45,000円 |
日本語サポートのみ | メール・電話での日本語サポート(記入確認や質疑応答など) | 45,000円 |
翻訳のみ | 日本語記入済内容を英語申請書へ翻訳記入 | 45,000円 |
面接時通訳 | MWO面接時に立ち会う通訳者の手配 | 45,000円 |
※別途、MWOへの実費(書類認証手数料など)が必要となります。また提携送り出し機関以外を利用の場合、全プラン8万円追加となります。
フィリピン独自の複雑な手続きは、専門家のサポートを得ることで、企業側の労力を少ないものにすることができます。
自社がどんな申請代行サービスを必要としているかを良く見極めて、依頼なさって下さい。
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まとめ:フィリピン人雇用を成功させるための二つの手続きの理解

フィリピン人特定技能人材の雇用を成功させ、長期的に安定した戦力として活躍してもらうためには、日本国内の手続きだけでなく、フィリピン政府が定める独自のルール、特に海外雇用許可証(OEC)の要件を深く理解することが不可欠です。
日本の再入国許可は日本へ再入国するための条件であり、フィリピンのOECはフィリピンから出国するための条件です。この「二つ」の要件が揃って初めて、外国人材は安心して一時帰国し、そして再び日本へ戻ってくることが可能となります。
MWO/DMWの手続きは複雑であり、フィリピン政府公認の送り出し機関や、専門知識を持つ登録支援機関のサポートが必須となります。MWO申請サポートでは特定技能のフィリピン人採用を検討している企業に向けた、様々なサポートプログラムを提供しています。
まずは一度、お気軽にご相談ください。
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